慢性腎臓病(CKD)の患者さんを担当したとき、
「eGFRが低いけど、リハビリの負荷を下げた方がいいのか?」
と悩むことがあります。
例えばeGFRが30台の患者さんを見ると、
「腎機能が悪いから運動は軽めにしておこう」
と考えることもあると思います。
一方で、
「CKD G3くらいなら、それほど運動負荷を気にしなくてもいい」
という意見を聞くこともあります。
では、実際にはどのように考えればよいのでしょうか。
今回は、CKD患者に対する運動療法のエビデンスと、理学療法士がリハビリ負荷を設定するときの腎機能の見方について整理します。
この記事の結論
最初に結論です。
「eGFRが低い=運動負荷を下げる」ではありません。
特に、腎機能や全身状態が安定しているCKD患者では、eGFRの値だけを理由として低負荷運動に制限する必要はありません。
現在では、CKD患者にも身体活動・運動療法が推奨されています。
KDIGO 2024では、CKD患者に対して、
中等度の身体活動を累計150分/週以上
または、
心血管系・身体的耐容能に応じたレベル
で行うことを推奨しています。
したがって、
eGFRは「運動強度を決める数字」というより、腎臓の状態を把握する情報の一つ
として考える方が分かりやすいでしょう。
実際の負荷設定では、
- Cr・eGFRの推移
- K(カリウム)
- Hb(ヘモグロビン)
- 血圧
- 浮腫・体液量
- 尿量
- 心血管系の状態
- 併存疾患
- 実際の運動に対する反応
などを総合的に評価することが重要です。
CKD G3とは?
CKDではGFRによって腎機能が分類されます。
| GFR区分 | eGFR(mL/min/1.73m²) |
|---|---|
| G1 | ≧90 |
| G2 | 60~89 |
| G3a | 45~59 |
| G3b | 30~44 |
| G4 | 15~29 |
| G5 | <15 |
したがって、CKD G3は、
eGFR 30~59 mL/min/1.73m²
です。
ここで注意したいのは、
「CKDの重症度分類」と「運動強度」は同じではない
ということです。
「G3だから低負荷」「G4だから運動禁止」という単純な対応関係ではありません。
CKD患者は運動してもいい?
かつては、運動による腎血流量の低下などから、CKD患者に対して安静や運動制限が指導されることもありました。
しかし、現在では考え方が変わっています。
KDIGO 2024では、
CKD患者に中等度の身体活動を累計150分/週以上、または心血管系・身体的耐容能に応じたレベルで行うこと
を推奨しています。
また、座位時間を減らすことも推奨されています。
つまり現在は、
「CKDだから運動を制限する」のではなく、「患者の状態に合わせて運動する」
という考え方になっています。
運動すると腎機能が悪化する?
ここも気になるところです。
Nakamuraらは、非透析CKD患者を対象としたRCTのシステマティックレビュー・メタ解析を行っています。
18試験、848人を解析した結果、
運動療法群と通常ケア群でeGFRに有意差は認められませんでした。
一方で、運動療法によって、
運動耐容能や歩行能力は改善
しました。
つまり現在のエビデンスでは、
「運動するとCKD患者の腎機能が悪化する」ことを支持する結果にはなっていません。
少なくとも安定した非透析CKD患者において、腎機能低下を恐れて一律に運動を避ける必要はないと考えられます。
eGFRが30台なら負荷を下げるべき?
ここが臨床で非常に重要です。
例えば、
eGFR 35 mL/min/1.73m²
という患者さんがいたとします。
しかし、
数か月前:34
1か月前:36
今回:35
で推移しており、
- K正常
- Hbが大きく低下していない
- 浮腫なし
- 血圧安定
- 尿量に大きな変化なし
- 心不全増悪なし
- 運動中の症状なし
という状態だったとします。
この場合、
「eGFRが35だから」という理由だけで低負荷運動に制限する根拠は乏しい
と考えられます。
G4でも70%1RMを行ったRCTがある
さらに興味深い研究があります。
Uchiyamaらは、**CKD stage 4(eGFR 15~30)**の患者46人を対象にRCTを実施しました。
平均ではなく中央値年齢73歳という高齢のCKD患者です。
運動群では6か月間、
有酸素運動:peak HRの40~60%、週3回
に加えて、
レジスタンストレーニング:約70%1RM、週2回
を実施しました。
その結果、運動群ではincremental shuttle walking testによる運動耐容能が有意に改善しました。
さらに一部の健康関連QOLについても改善が認められています。
重要なのは、
CKD G4であっても「腎機能が悪いから低負荷しかできない」という運動処方ではなかった
という点です。
もちろん、この研究では急性に腎機能が悪化している患者などは除外されています。
つまり重要なのは、
CKD stageだけではなく、患者がstableな状態かどうか
です。
レジスタンストレーニングはどのくらい?
日本腎臓学会が公開しているCKDの運動療法に関する教育資料では、
最大筋力(1RM)の60~75%
程度のレジスタンス運動を、
10~15回 × 1~数セット
週2~3日
実施することが示されています。
これは決して「かなり軽い筋トレ」ではありません。
したがって、
「CKDだから筋力トレーニングは極端な低負荷にする」
という考え方ではありません。
ただし、実際の臨床では1RMを直接測定することが適切でない患者も多いため、10~15回程度実施可能な負荷などから調整する方法も考えられます。
有酸素運動の強度は?
CKD患者に対する有酸素運動では、
中等度強度
が基本となります。
研究では、
Borg RPE 11~13
程度が用いられることがあります。
実際、CKD stage 4を対象としたUchiyamaらの研究でも、
peak HR 40~60%、Borg 11~13
を目標として有酸素運動が処方されています。
ただし、
「CKD患者なら全員Borg 11~13にする」
という意味ではありません。
年齢、フレイル、心疾患、β遮断薬、整形外科疾患、運動耐容能などによって個別に設定します。
では理学療法士は何を確認する?
実際の臨床では、eGFR単独ではなく以下を確認すると整理しやすくなります。
| 項目 | 確認するポイント |
|---|---|
| Cr・eGFR | 絶対値だけでなく推移 |
| K | 高K血症などの電解質異常 |
| Hb | 腎性貧血と運動耐容能 |
| 血圧 | 安静時・運動時の反応 |
| 浮腫 | 体液過剰の可能性 |
| 体重 | 急激な増減 |
| 尿量 | 急な減少がないか |
| HR | 運動に対する反応 |
| SpO₂ | 呼吸・循環状態 |
| Borg | 自覚的運動強度 |
| 自覚症状 | 息切れ、倦怠感、胸部症状など |
| 併存疾患 | 心不全、糖尿病、心血管疾患など |
つまり、
「腎臓だけを見る」のではなく、全身状態の中の一つとして腎機能を見る
という考え方です。
eGFRの「値」より「推移」が重要なこともある
例えば、
eGFR 34
でも、
以前から32~36程度で推移している患者と、
昨日までeGFR 60だったのに今日34になった患者
では意味が全く違います。
後者では、
- Cr急上昇
- 尿量減少
- 高K血症
- 浮腫増悪
- 脱水
- 血圧変動
などを確認し、急性腎障害(AKI)の可能性を考える必要があります。
この場合に負荷を再評価する理由は、
「eGFR 34だから」ではなく、「急性の腎機能変化や全身状態の悪化が疑われるから」
です。
病棟ではこう考えると分かりやすい
例えばカルテで、
eGFR 34
を見たとします。
そこで、
eGFR 34
↓
腎機能が悪い
↓
低負荷
と直結させるのではなく、
eGFR 34
↓
以前から30台?それとも急に低下?
↓
Kは?
Hbは?
浮腫・体重は?
尿量は?
血圧は?
心不全などの併存疾患は?
↓
実際の運動中のBP・HR・SpO₂・Borg・症状は?
↓
負荷を決定
という流れで考えると整理しやすくなります。
eGFRcreatには落とし穴がある
リハビリテーション領域では、もう一つ重要な問題があります。
普段カルテで見るeGFRは、多くの場合、
血清クレアチニン(Cr)
から推算されています。
しかし、Crは腎機能だけで決まるわけではありません。
筋肉量の影響を受けます。
そのため、
- サルコペニア
- 長期臥床
- フレイル
- 筋肉量が非常に少ない患者
- 四肢切断
- 脊髄損傷などで筋肉量が大きく変化した患者
などでは、クレアチニンを用いたeGFRの精度が低下する可能性があります。
筋肉量が少ないとeGFRが良く見えることがある
例えば長期臥床によって筋肉量が著しく低下すると、
筋肉量低下
↓
Cr産生量低下
↓
血清Cr低下
↓
eGFRcreatが高く算出される
ということがあります。
つまり、
「Crが低い=腎臓が良い」
とは限りません。
特にサルコペニアの強いリハビリテーション患者では注意が必要です。
そんなときはシスタチンCも選択肢
KDIGO 2024では、筋肉量などの影響によって血清Crを用いたeGFRの精度が低下すると考えられる状況について、シスタチンCを用いたeGFRやCr+シスタチンCによる評価を検討することが示されています。
例えば、
筋肉量が著しく少ない
↓
Crが低い
↓
eGFRcreat 70
だったとしても、
臨床像から腎機能がそれほど良いとは考えにくい場合には、
eGFRcysやeGFRcr-cys
を確認することで、より適切に腎機能を評価できる可能性があります。
これは特に、サルコペニアや長期臥床患者を多く担当するリハビリテーション職種が知っておきたいポイントです。
「CKD G3なら負荷を気にしなくていい」は正しい?
これは言い方によります。
「安定したCKD G3なら、eGFRが30~59という理由だけで運動負荷を下げる必要はない」
という意味なら、現在のガイドラインや研究結果と概ね整合します。
実際、さらに腎機能が低下したCKD G4でも、中等度の有酸素運動や約70%1RMのレジスタンストレーニングを実施したRCTがあります。
一方で、
「CKD G3なら腎機能について何も気にせず運動していい」
という意味なら正確ではありません。
CKD患者では、
- 急性腎障害
- 高K血症などの電解質異常
- 腎性貧血
- 体液過剰
- 高血圧
- 心血管疾患
- 心不全
- 糖尿病
などが運動療法に影響する可能性があります。
したがって、
CKD stageそのものより、「現在の全身状態が安定しているか」を確認する
ことが重要です。
まとめ
CKD患者のリハビリテーションでは、
「eGFRが低い=運動負荷を下げる」
と単純に考える必要はありません。
現在ではCKD患者にも運動療法が推奨されており、KDIGO 2024では中等度の身体活動を週150分以上、または患者の心血管系・身体的耐容能に応じたレベルで実施することが推奨されています。
また、非透析CKD患者を対象としたメタ解析では、運動によってeGFRが有意に悪化する結果は認められず、運動耐容能や歩行能力は改善しています。
さらにCKD G4を対象としたRCTでも、
有酸素運動:peak HR 40~60%、Borg 11~13
レジスタンス運動:約70%1RM
という運動療法が実施されています。
したがって、
eGFR 30台だから低負荷
という単純な運動処方ではなく、
Cr・eGFRの推移
+
K
+
Hb
+
体液量
+
血圧・循環動態
+
併存疾患
+
実際の運動反応
から負荷を判断することが重要です。
そしてもう一つ、
eGFRcreatは筋肉量の影響を受ける
ことも、リハビリテーション職種にとって重要なポイントです。
最後に一言でまとめるなら、
「eGFRは運動負荷を決める数字ではない。腎機能と全身状態を把握する情報の一つとして使う」
という考え方が、CKD患者のリハビリ負荷を考えるうえで重要です。
参考文献
- Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024;105(Suppl 4S).
- Baker LA, March DS, Wilkinson TJ, et al. Clinical practice guideline exercise and lifestyle in chronic kidney disease. BMC Nephrol. 2022;23:75. PMID: 35193515. DOI: 10.1186/s12882-021-02618-1.
- Nakamura K, Sasaki T, Yamamoto S, et al. Effects of exercise on kidney and physical function in patients with non-dialysis chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2020;10:18195. PMID: 33097801. DOI: 10.1038/s41598-020-75405-x.
- Uchiyama K, Adachi K, Muraoka K, et al. Home-based aerobic exercise and resistance training for severe chronic kidney disease: a randomized controlled trial. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021;12(6):1789-1802. PMID: 34554649. DOI: 10.1002/jcsm.12775.
- 日本腎臓学会. 慢性腎臓病(CKD)の食事・運動療法:セルフトレーニング問題の解答と解説. 日本腎臓学会.
※本記事は医学・リハビリテーションに関する研究情報・ガイドラインの紹介を目的としています。個々の患者への運動処方は、腎機能だけでなく、急性腎障害、電解質異常、貧血、体液量、循環動態、併存疾患、薬物治療などを考慮して個別に判断する必要があります。

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