抗がん剤の点滴中にリハビリしていい?―化学療法中の運動と「抗がん剤が効きやすくなる」説を整理―

血液内科の患者さんを担当していると、

「今日は抗がん剤の点滴中だけど、リハビリしていいのだろうか?」

と迷うことがあります。

特に白血病や悪性リンパ腫では、化学療法が長時間にわたることもあり、

「点滴が終わってからリハビリした方が安全なのでは?」

と考えることもあるでしょう。

一方、近年は、

「化学療法中に運動すると、抗がん剤が腫瘍へ届きやすくなるのではないか」

という非常に興味深い研究も報告されています。

そこで今回は、

  • 化学療法中に運動してよいのか
  • 抗がん剤の「点滴中」に運動してよいのか
  • 血液内科患者でも安全なのか
  • 血小板・Hb・好中球はどう考えるのか
  • 運動すると抗がん剤が効きやすくなるのか

について、現在の研究を整理します。


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この記事の結論

最初に結論です。

化学療法を受けているという理由だけで、リハビリを中止する必要はありません。

急性白血病など血液腫瘍患者でも、化学療法中の運動療法は多数研究されており、患者の状態に合わせて実施することで身体機能の維持・改善が期待できます。

一方、

「抗がん剤がまさに点滴されている最中に運動する」

ことについては、少し話が違います。

点滴中に低強度の運動を行ったヒト研究は存在し、小規模研究では安全性・実施可能性が報告されています。

しかし、その研究の多くは固形がん患者を対象としており、非vesicant(壊死性を有さない)薬剤を使用した患者など、対象が限定されています。

そのため、

「抗がん剤の点滴中でも全員リハビリして大丈夫」

とまでは言えません。

また、

「運動すると抗がん剤がよく効く」

という話については、動物研究では非常に興味深い結果があります。

ヒトでも運動によって腫瘍血流が増える可能性が報告され始めています。

しかし現時点では、

運動によってヒトの抗がん剤の抗腫瘍効果そのものが高まることは証明されていません。


まず「化学療法中」と「点滴中」を分けて考える

このテーマで最も重要なのがここです。

「化学療法中の運動」という言葉には、

①化学療法を行っている数週間~数か月の治療期間中に運動する

ことと、

②抗がん剤が静脈内に投与されている、その時間に運動する

ことの2つが含まれます。

この2つはエビデンスが異なります。

①については、かなり研究があります。

②については、まだ研究が少ないのが現状です。


血液腫瘍でも化学療法中の運動はできる?

できます。

代表的なのが、Alibhaiらによる急性骨髄性白血病(AML)患者を対象としたランダム化比較試験です。

対象は、寛解導入化学療法を受けるAML入院患者83人。

運動群では入院期間中、

週4~5日
1回30~60分
有酸素運動+レジスタンス運動を含む中等度運動

を実施しました。

その結果、運動群では、

  • 有酸素能力
  • 下肢筋力
  • 握力

などの改善が認められました。

そして重要なのは、

AMLの寛解導入療法中でも、監視下の運動療法は実施可能で、安全性にも大きな問題が認められなかった

という点です。

つまり、

「強力な化学療法をしているから安静」

という考え方ではありません。


血液腫瘍患者全体ではどう?

血液腫瘍患者の化学療法中の運動をまとめたシステマティックレビューでも、運動療法は概ね安全かつ実施可能と報告されています。

急性白血病を対象として、

寛解導入療法中に持久力トレーニングやレジスタンストレーニング

を実施したRCTもあります。

つまり現在では、

化学療法中であること自体は、運動療法の禁忌ではない

と考えるのが妥当でしょう。

ただし当然、

その日の全身状態や血液データに応じて内容を変更する

必要があります。


では「抗がん剤の点滴中」に運動していい?

ここからが本題です。

実は、

抗がん剤を点滴している最中に運動させたヒト研究

があります。

2019年に報告されたランダム化クロスオーバー試験では、化学療法を受ける成人が、

抗がん剤点滴中に20分間の低強度サイクリング

を行いました。

対象者は10人と非常に少数でした。

しかし、

運動による有害事象や化学療法への干渉は報告されませんでした。

つまり少なくとも、

選択された患者に対する低強度運動は、点滴中でも実施可能である可能性

が示されています。


ただし、この研究には重要な条件がある

ここを見落としてはいけません。

この研究の対象となったのは、

non-vesicant agent(壊死性抗がん薬ではない薬剤)

による治療を受けている患者です。

つまり、

「どんな抗がん剤でも、点滴中に自転車を漕いで大丈夫」

という研究ではありません。

抗がん薬の血管外漏出は、薬剤によっては重篤な組織障害につながります。

特にvesicant薬剤や末梢静脈からの投与では、

  • 穿刺部位
  • 点滴ルート
  • 関節運動
  • 血管外漏出リスク

なども考える必要があります。

したがって、PTが単独で

「研究で安全だから点滴中も歩きましょう」

と判断するものではありません。

薬剤の種類、投与経路、ルートの状態について看護師・医師と確認することが重要です。


2025年には点滴中運動のRCTも報告されている

さらに最近では、乳がん患者を対象として、

化学療法点滴中に20分間の低強度サイクリング

を実施したRCTも報告されています。

39人が研究を完遂しました。

この研究では主に、

  • 倦怠感
  • QOL
  • 化学療法関連症状

などが評価されました。

QOLや疲労について明確な群間差は認められませんでしたが、

点滴中に低強度運動を実施する研究が、ヒトのRCTとして行われる段階まで進んでいる

ことは興味深いところです。


なぜ「点滴中に運動」するのか?

単に時間を有効活用するためだけではありません。

ここには非常に面白い仮説があります。

運動すると、

心拍出量が増加
↓
血流が変化
↓
腫瘍への血流も増加する可能性
↓
静脈内投与された抗がん剤が腫瘍へ届きやすくなる?

という考え方です。

これが、

「運動すると抗がん剤が効きやすくなる」

という話の一つの背景です。


動物実験ではかなり面白い結果が出ている

前臨床研究では、運動によって、

  • 腫瘍血流
  • 腫瘍血管
  • 腫瘍低酸素環境
  • 抗がん剤delivery

などが変化する可能性が研究されています。

一部の動物実験では、

運動+抗がん剤

によって、抗がん剤単独より腫瘍増殖が抑制されたという報告もあります。

そのため、

「抗がん剤が血液中を流れているタイミングで運動すれば、薬剤が腫瘍に届きやすくなるのではないか」

という非常に興味深い仮説が生まれています。


ヒトでも腫瘍血流が増えることが確認され始めた

さらに2026年、興味深いヒト研究が報告されました。

stage IVがんで肝転移を有する患者を対象として、

  • 低強度
  • 中等度
  • 高強度

の短時間サイクリングを行い、超音波を用いて実際の肝転移巣の血流を測定しました。

解析可能だった患者はわずか5人なので、非常に予備的な研究です。

しかし、

中等度運動後に腫瘍血流速度の指標が約152%に増加

しました。

これは、

「運動するとヒトでも腫瘍への血流が増える可能性がある」

ことを直接示した非常に興味深い結果です。


じゃあ運動すると抗がん剤がよく効く?

ここは慎重に考える必要があります。

まだ「効く」とは言えません。

腫瘍血流が増えることと、

抗がん剤が腫瘍内に多く到達すること

は同じではありません。

さらに、

抗がん剤が多く到達することと、

腫瘍がより縮小すること

も同じではありません。

この3段階は分けて考える必要があります。


ヒトで「腫瘍がよく縮むか」まで調べた研究もある

近年は、ここまで踏み込んだ研究も出ています。

Iyengarらは、原発性乳がん患者144人を対象としたランダム化試験の二次解析で、

運動療法が化学療法のdose intensityや腫瘍responseに影響するか

を調べています。

運動群では、

100%のrelative dose intensity(RDI)を達成した患者
71%

通常ケア群では、

57%

でした。

全体では統計学的有意差には達しませんでしたが、アントラサイクリン投与患者では、

運動群77%
通常ケア群57%

で100%RDIを達成していました。

つまり、

運動によって予定された化学療法を維持しやすくなる可能性

があります。


でも腫瘍そのものへの効果は?

術前化学療法を受けた患者では、

病理学的完全奏効(pCR)

も評価されています。

結果は、

運動群27%
通常ケア群28%

でした。

明らかな差はありません。

つまり、

化学療法を予定通り実施しやすくなる可能性

と、

抗がん剤そのものが効きやすくなる

ことは分けて考える必要があります。


さらにNeo-train試験では?

2025年には、乳がん患者102人を対象としたNeo-trainランダム化比較試験が報告されました。

運動群では、術前化学療法期間中に、

高強度インターバルトレーニング+漸増抵抗運動を週3回

実施しました。

その結果、

  • relative dose intensityが高い
  • dose delayが少ない
  • 入院期間が短い
  • 心肺体力が改善
  • 筋力が改善

といったメリットが認められました。

しかし、

病理学的完全奏効(pCR)は
運動群59%
通常ケア群56%

で有意差はありませんでした。

したがって現在のヒト研究では、

運動によって化学療法を完遂しやすくなる可能性はある

ものの、

運動によって抗がん剤の抗腫瘍効果そのものが増強する

とはまだ言えません。


血液内科患者にも「抗がん剤が効きやすくなる」と言える?

ここはさらに注意が必要です。

腫瘍血流やpCRについての研究の多くは、

乳がんなどの固形がん

を対象としています。

一方、

  • AML
  • ALL
  • 悪性リンパ腫
  • 多発性骨髄腫

などの血液腫瘍では病態が異なります。

例えば白血病では、「腫瘍への血流を増やして抗がん剤を届ける」という固形腫瘍と同じモデルをそのまま当てはめることはできません。

したがって血液内科患者については、

「運動すると抗がん剤が効きやすくなる」

とは現時点では言えません。

血液内科で運動を行う主な根拠は、

身体機能低下や廃用を防ぎ、治療期間中の体力を維持すること

にあります。


血液内科で本当に重要なのは「点滴中かどうか」だけではない

血液内科のリハビリでは、

「抗がん剤が点滴されているか」

だけで運動の可否を判断するのでは不十分です。

むしろ重要なのは、

  • 血小板
  • Hb
  • 好中球
  • 発熱・感染
  • 出血症状
  • 血圧・循環動態
  • 倦怠感
  • 悪心・嘔吐
  • めまい
  • 点滴ルート
  • 使用薬剤
  • 当日の治療スケジュール

などです。


血小板はいくつならリハビリできる?

ここも非常に興味深いところです。

従来は、

「血小板が○万以下ならリハビリ中止」

という基準が使われることがありました。

しかし2025年に発表された、血液腫瘍患者の血球数と運動・ADLについてまとめたscoping reviewでは、

血小板数だけで運動を一律禁止する考え方から、血小板数に応じて運動内容を調整する方向

へ変化していることが報告されています。

研究によって基準は異なるため、絶対的なカットオフは決まっていません。


血小板がかなり低くても完全安静とは限らない

過去の研究・ガイドラインでは、おおよそ以下のような考え方が用いられています。

血小板数運動の考え方の例
2万/μL以上状態に応じて運動可能
1~2万/μL抵抗運動を避け、軽い運動・歩行などを検討
0.5~1万/μLベッド上・椅子上中心の最小限の活動
0.5万/μL未満医療チームと相談し延期を検討

ただし、これは絶対的な中止基準ではありません。

施設基準、出血症状、転倒リスク、輸血予定などを合わせて判断します。

特に低血小板時には、

  • 高負荷レジスタンス運動
  • 強いいきみ
  • 血圧を大きく上昇させる運動
  • 転倒リスクの高い運動

などを避けることが重要です。


Hbは?

Hb低下では、

酸素運搬能力の低下による運動耐容能低下

が問題になります。

血液腫瘍患者の研究では、

Hb 7~8 g/dL前後

を運動中止・変更や輸血を検討する基準としている研究が多くみられます。

ただし、ここも数字だけではありません。

同じHb 7.8 g/dLでも、

  • めまい
  • 息切れ
  • 頻脈
  • 胸部症状
  • 起立時症状

などがある患者と無症状の患者では対応が異なります。

したがって、

Hb+症状+循環反応

で考える必要があります。


好中球が低い場合は?

好中球減少では、運動そのものより、

感染リスク

が重要になります。

2025年のscoping reviewでは、好中球については血小板ほど明確な運動中止カットオフは確立されていませんでした。

むしろ、

  • 発熱
  • 感染症状
  • 重篤な全身状態
  • 運動環境
  • 共用機器の衛生管理

などを重視する必要があります。

好中球が低いから「筋肉を動かすと危険」ということではなく、

感染を起こさない環境で安全に活動する

ことがポイントです。


AMLの研究では実際どうしていた?

AML患者を対象としたAlibhaiらの研究では、かなり参考になる具体的な運用がされています。

Hb<8 g/dL

では、めまいなど運動の禁忌となる症状について患者・看護師と確認し、必要なら輸血終了後に運動しました。

また、

血小板<1万/μL

では輸血終了まで運動を行わず、

血小板1~2万/μL

では、ダンベルではなくチューブを使用するなど、出血・打撲リスクを減らしていました。

つまり、

血球数が低下したらリハビリを全部中止する

のではなく、

その日の血球数と症状に合わせて内容を変更する

という運用です。


PTが点滴中の患者を担当するときはどう考える?

実際の病棟なら、

「抗がん剤中だから中止」

でも、

「研究で安全だから普通に運動」

でもなく、次のように考えると整理しやすいでしょう。

①今日の薬剤・投与方法を確認する

vesicantか、non-vesicantか。

末梢静脈か、PICC・CV・ポートなどの中心静脈アクセスか。

点滴ルートを牽引したり、穿刺部周囲を大きく動かしたりする運動にならないか。

②血液データを確認する

Plt、Hb、好中球などを確認します。

③全身状態を確認する

発熱、感染、出血、悪心、嘔吐、めまい、倦怠感、血圧などを確認します。

④看護師と情報共有する

「今この薬剤が入っていますが、離床・歩行して問題ありませんか?」

という確認は非常に重要です。

⑤その日の状態に合わせて運動内容を変更する

歩行が難しければ、

  • ベッド上運動
  • 座位運動
  • 軽いレジスタンス運動
  • ROM
  • 短時間のエルゴメーター

などに変更します。


「点滴中だからリハ中止」ではない

ここまでを整理すると、

抗がん剤の点滴中であること自体を、一律のリハビリ中止基準にする根拠は乏しい

と考えられます。

一方、

点滴中なら何をしても安全

という根拠もありません。

特に血液内科患者については、点滴中運動そのものの直接的な研究がまだ十分ではありません。

したがって、

薬剤
+
投与ルート
+
血球数
+
全身状態
+
症状
+
医師・看護師との情報共有

から、その日の運動を決めるのが現実的です。


まとめ

化学療法中の患者に対する運動療法は、現在では広く研究されており、血液腫瘍患者でも安全性・実施可能性を支持する研究があります。

AMLの寛解導入療法中でも、中等度の有酸素運動やレジスタンストレーニングを行ったRCTがあります。

さらに、

抗がん剤が点滴されている最中に低強度運動を行ったヒト研究

も存在します。

ただし、これらは主として固形がん・選択された患者・低強度運動・non-vesicant薬剤などを対象としており、

「血液内科患者も抗がん剤点滴中に積極的に運動すべき」

と結論づけられる段階ではありません。

また、

「運動すると抗がん剤が効きやすくなる」

という仮説は非常に興味深く、動物研究に加えて、ヒトでも運動によって腫瘍血流が増加する可能性が報告され始めています。

しかし、乳がん患者を対象とした最近のRCTでは、

化学療法のdose intensityや治療完遂には有利な可能性がある一方、腫瘍縮小や病理学的完全奏効を明確に改善する結果は得られていません。

したがって現時点では、

運動は「抗がん剤を効かせるため」に行うというより、治療中の身体機能を維持し、治療を乗り切る身体的余力を保つために行う

と考えるのが妥当でしょう。

血液内科の病棟リハでは、

「抗がん剤が入っているから今日は中止」

と単純に判断するのではなく、

「今日の薬剤と投与ルートは?
Plt・Hb・好中球は?
発熱・出血・症状は?
この患者に今日できる運動は何か?」

と考えることが重要です。


参考文献

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  8. Ligibel JA, et al. Exercise, Diet, and Weight Management During Cancer Treatment: ASCO Guideline. J Clin Oncol. 2022.

※本記事は医学・リハビリテーションに関する研究情報の紹介を目的としています。実際のリハビリテーション実施可否は、薬剤の種類、投与経路、血球数、出血・感染リスク、循環動態、患者の症状および各施設の基準を踏まえ、医師・看護師などと連携して個別に判断してください。

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