前回の記事では、
「LCS術後、神経の圧迫は取れたのに前脛骨筋が動かないのはなぜ?」
という話をしました。
そこで出てきたのが、
軸索障害 → 脱神経
という問題です。
神経が回復するには数週〜数か月かかる可能性があります。
では、その間の前脛骨筋はどうなっているのでしょうか?
そして理学療法士なら、おそらく一度はこう考えます。
「神経が戻ってくるまでNMESをしておけばいいんじゃない?」
今回は、この疑問を掘り下げます。
神経が戻るまで、筋肉はただ待っているわけではない
L5神経根からの運動入力が失われると、前脛骨筋は脱神経状態になります。
すると筋肉では、
- 筋線維の萎縮
- 筋断面積の低下
- 筋線維膜の電気的特性の変化
- 神経筋接合部の変化
などが起こります。
長期間になると、
脂肪浸潤や結合組織化(線維化)
なども問題になります。
つまり、
神経が回復するまで筋肉の状態が完全に保存されているわけではない
のです。
長期脱神経が続けば、仮に神経が再支配できる状態になったとしても、筋肉側が以前と同じように力を発揮できるとは限りません。
ただし「完全脱神経」と「部分脱神経」は違う
ここが重要です。
すべての運動軸索が完全に失われているとは限りません。
一部の運動単位が残っている場合、生き残った軸索から、
collateral sprouting(側芽形成)
が起こります。
つまり、生き残った運動ニューロンが、本来別のニューロンに支配されていた筋線維まで拾い直します。
その結果、一つの運動ニューロンが担当する筋線維が増えます。
これが再支配です。
EMGでは時間経過とともに、再支配を反映するmotor unit potentialの変化として観察されます。
ここでNMESを考えてみる
「前脛骨筋MMT 0だからNMES」
と考えたくなります。
しかし、ここには落とし穴があります。
普通のNMESは、基本的に筋肉そのものではなく運動神経を刺激している
からです。
一般的なNMESでは、
電気刺激
↓
運動神経が興奮
↓
神経筋接合部
↓
筋線維が興奮
↓
筋収縮
という経路を利用します。
MMT 0でもNMESで収縮することはある
例えば随意運動ではTAがまったく動かず、
MMT 0
だったとします。
でもNMESをすると、
TAが収縮する。
これはあり得ます。
MMT 0とは、
「自分の意思で確認できる筋収縮を起こせない」
という臨床評価です。
「TAにつながるすべての運動軸索が死んでいる」
という意味ではありません。
残存する運動軸索が電気刺激に反応できれば、NMESで収縮を作れる可能性があります。
この患者なら、通常のNMESを使って筋収縮を誘発することには生理学的な合理性があります。
問題はNMESをしても全く収縮しない場合
ここで、
「刺激が弱いんかな?」
「もう少し電流を上げよう」
と考えてしまいがちです。
でも高度な軸索障害の場合、
刺激する運動神経そのものが機能していない
可能性があります。
すると、
電気刺激
↓
運動神経
↓
反応しない
↓
TAも収縮しない
となります。
この場合、通常のNMESの延長で刺激強度を上げ続けても、理屈としては限界があります。
じゃあ筋肉を直接刺激できないの?
できます。
これが、
denervated muscle stimulation
つまり脱神経筋への直接電気刺激です。
ただし、通常のNMESとは条件が大きく異なります。
脱神経された筋線維を直接脱分極させるためには、神経刺激よりはるかに長いpulse durationが必要になります。
レビューでは、脱神経筋の刺激に必要なpulse durationは、正常な神経支配筋への刺激より100〜1000倍程度長いことが示されています。
ヒトの長期脱神経筋を対象にした研究では、筋収縮を誘発するために100 msを超える長いパルスを用いた例もあります。
一般的なNMESがμsオーダーであることを考えると、かなり違います。
つまり、
普通のNMES機器を貼って刺激を強くすれば同じことができる
わけではありません。
脱神経筋を刺激すると筋萎縮を防げる?
ここは非常に興味深いところです。
ヒトの長期脱神経筋を対象にした研究では、長パルス電気刺激によって、
筋断面積の増加
筋線維径の増加
筋収縮力の改善
筋組織構造の改善
などが報告されています。
22人の脱神経筋を対象にした研究でも、12週間の直接筋刺激によって筋厚や羽状角の改善が報告されています。
つまり、
「神経が戻るまで筋肉の状態をできるだけ維持する」
という発想には、生理学的な根拠があります。
じゃあLCS術後TA 0には全員やればいい?
ここが重要です。
答えは、
まだそこまでは言えません。
2020年の多施設二重盲検RCTでは、軸索損傷を伴う外傷性末梢神経障害38例を対象に、
脱神経筋への電気刺激
vs
sham刺激
が比較されました。
結果として両群とも改善しましたが、電気刺激による明確な上乗せ効果は示されませんでした。
さらに、古い研究でも完全末梢神経損傷後の筋に対する低周波刺激の明確な利益は確認されていません。
つまり現在のエビデンスを整理すると、
脱神経筋を電気刺激で収縮させることはできる。
そして、
筋厚や筋断面積などを改善できる可能性もある。
しかし、
最終的な神経学的回復や歩行能力まで改善するのかは、まだ十分に証明されていない。
という状況です。
「筋肉を守る」と「神経を治す」は分けて考える
ここは混同しやすいところです。
TAを電気刺激すると、
「L5神経根の再生が早くなる」
ような印象を持つかもしれません。
しかし、脱神経筋への直接刺激で比較的研究されているのは、
筋萎縮や筋構造の変化を抑える/改善する
という筋肉側への効果です。
一方、
TAにNMESをすればL5神経根の軸索再生が促進される
ということがLCS術後患者で確立されているわけではありません。
末梢神経そのものへの電気刺激によって神経再生を促進しようとする研究はありますが、それは通常のTAへのNMESとは分けて考える必要があります。
だから「MMT 0」をもう少し細かく考えたい
ここまで整理すると、
MMT 0=全員同じ
ではないことが分かります。
例えば、
患者A
TA MMT 0
↓
通常NMES
↓
TA収縮あり
この患者では、随意収縮はできなくても、電気刺激に反応できる運動単位が残っている可能性があります。
通常NMESを使って筋収縮を作ることを検討できます。
患者B
TA MMT 0
↓
通常NMES
↓
全く収縮しない
この場合は、
高度な脱神経
を考える必要があります。
ここで、
「もっと刺激を強くしよう」
だけで終わるのではなく、
EMG/NCSで何が起きているのか確認したい
ところです。
EMGを見るとさらに面白い
needle EMGで、
fibrillation potential
positive sharp wave
+
voluntary MUAPなし
なら、活動性脱神経が強い状態を考えます。
一方、時間経過とともに、
nascent motor unit
などが確認されれば、
「再支配が始まっているかもしれない」
という情報になります。
同じMMT 0でも、
再支配が始まっているMMT 0
と、
ほぼ完全脱神経のMMT 0
では意味が全く違います。
だからLCS術後の麻痺を見るとき、
MMTだけでなく電気生理学的評価を組み合わせる意味があります。
ただし脱神経筋刺激は安易にやらない
「じゃあパルス幅を100 msくらいにして刺激すればいいのか」
という話ではありません。
脱神経筋を直接刺激するには通常より大きな刺激量が必要になるため、
- 疼痛・不快感
- 皮膚への負担
- 組織損傷
- 刺激選択性の低下
などが問題になります。
LCS患者では感覚障害を伴っていることもあります。
そのため、一般的なNMESの延長として自己流で長パルス刺激を行うのは避けるべきでしょう。
LCS術後TA 0を見たらどう考える?
個人的には、
「MMT 0だからNMESをする」
ではなく、
「このMMT 0はどんな0なのか?」
と考えることが大切だと思います。
術後の新規麻痺・急激な増悪
↓
まず血腫や再圧迫などを除外
残存するL5麻痺
↓
通常NMESでTAは収縮する?
収縮する
↓
残存運動軸索が存在する可能性
↓
通常NMESによる筋収縮を検討
収縮しない
↓
高度な軸索障害・脱神経を疑う
↓
EMG/NCSなどで評価
↓
通常NMESをただ強くするのは再考
という流れです。
まとめ
LCS術後に前脛骨筋がMMT 0だからといって、
「筋力低下が強いだけ」
とは限りません。
背景には、
運動神経がどれくらい残っているのか
という問題があります。
部分脱神経であれば、通常のNMESで筋収縮を誘発できる可能性があります。
一方、完全に近い脱神経では、通常のNMESでは筋収縮を作れない可能性があります。
脱神経筋そのものを長パルス電気刺激によって収縮させ、筋萎縮を抑えようとする方法も存在します。
しかし、
LCS術後の前脛骨筋麻痺にそれを行えば、最終的な筋力や歩行予後が改善する
というところまでのエビデンスは現在ありません。
だからこそ、
「MMT 0だからNMES」ではなく、「その0の中身を考える」
ことが大切です。
そして次に気になるのは、
「通常NMESで収縮するMMT 0と、全く収縮しないMMT 0では、本当に神経学的予後が違うのか?」
という疑問です。
ここまで分かれば、LCS術後のdrop footに対するリハビリの考え方はさらに具体的になりそうです。
参考文献
- Schuhfried et al. Electrical stimulation of denervated muscles: first results of a clinical study. PMID: 11940016
- Kern et al. Long-term denervation in humans and rehabilitation by electrical stimulation. PMID: 15389722
- Willand et al. Electrical stimulation to promote peripheral nerve regeneration. PMID: 31997798
- 2020 multicenter double-blind RCT:軸索損傷を伴う末梢神経障害への電気刺激(PMID: 32249950)
- 脱神経筋に対する12週間の直接筋刺激と筋形態変化(PMID: 34896792)
- 2026 review:denervated muscle stimulationの現状と課題(PMID: 41452734)
- LSS術後残存foot dropに対するNMES/FES症例報告(PMID: 40642731)

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