LCS術後、神経の圧迫は取れたのに前脛骨筋が動かない。時間が経てば戻る?

腰部脊柱管狭窄症(LCS)の術後患者さんを担当していると、ときどきこんな症例に出会います。

「手術で神経の圧迫は取れているはずなのに、前脛骨筋が全然収縮しない」

足関節背屈はMMT 0〜1。

患者さんからは、

「手術したのに、なんで足が上がらないんですか?」

「時間が経てば戻ってくるんですか?」

と聞かれます。

これ、意外と答えるのが難しい質問です。

なぜなら、

「神経の圧迫が解除されたこと」と「神経の機能が回復したこと」は同じではない

からです。

今回は、LCS術後に前脛骨筋の麻痺が残るメカニズムと、「いつまで回復する可能性があるのか?」について文献をもとに整理します。

除圧したのに、なぜ前脛骨筋が動かない?

まず押さえておきたいのが、除圧術の意味です。

手術によってL5神経根への圧迫を取り除けば、

「神経が正常になった」

ように感じます。

しかし実際には、

手術は傷害された神経を瞬間的に修復しているわけではありません。

むしろ、

「これ以上神経が圧迫されない環境を作った」

と考えた方が分かりやすいでしょう。

長期間圧迫された神経根には、すでにさまざまな変化が生じている可能性があります。

「伝導ブロック」と「軸索障害」は全然違う

かなり単純化すると、神経障害を2つに分けて考えると理解しやすくなります。

① 伝導ブロックが主体の場合

圧迫によって脱髄などが起こり、

「神経は残っているけれど、電気信号をうまく伝えられない」

状態です。

この場合、

圧迫解除
↓
伝導機能の改善
↓
前脛骨筋への運動指令が再び届く
↓
筋収縮が戻る

という比較的良好な経過が期待できます。

いわゆるneurapraxiaに近い状態であれば、数週〜数か月で機能が回復する可能性があります。

問題は「軸索そのもの」が障害されている場合

長期間、あるいは強く神経根が圧迫されていると、軸索そのものが障害されることがあります。

すると、

L5神経根の圧迫
↓
軸索障害
↓
遠位軸索の変性
↓
前脛骨筋の脱神経
↓
筋収縮ができない

という状態になります。

この状態では、圧迫を取っただけでは前脛骨筋はすぐに動きません。

軸索の再生や、残存軸索からの再支配を待つ必要があります。

つまり、

「手術した翌日もMMT 0だった」

からといって、

「手術しても治らなかった」

とは言えません。

実際、drop footはどのくらい回復する?

腰椎変性疾患によるdrop footをまとめた2025年のsystematic review/meta-analysisでは、918例中、

  • 約82%でMMTが少なくとも1段階改善
  • 約60%が最終的にMMT 4〜5まで回復
  • 約18%では改善なし

という結果でした。

ただし、この研究には椎間板ヘルニアとLCSの両方が含まれています。

LCSだけを考える場合は少し注意が必要です。

過去の研究では、腰椎椎間板ヘルニアによるdrop footと比較して、LCSによるdrop footの方が回復しにくい可能性も報告されています。

回復するなら、いつ頃?

ここが臨床では一番気になるところです。

71例を調査した研究では、術後に背屈筋力が改善した患者は約73%。

そして、

改善までの中央値は術後6週間以内

でした。

別の研究でも、

約70%が術後1か月以内に筋力改善

を示しています。

つまり、回復する患者では比較的早い時期から何らかの変化が出てくることが多いようです。

しかし、

1か月で戻らなかったら終わり

という意味ではありません。

別の研究では、前脛骨筋の筋力は術後徐々に改善し、おおむね術後6か月頃まで回復が進んだことが報告されています。

イメージとしては、

術後数日〜数週
→ まだ判断できない

術後1か月
→ 早期回復群が見え始める

術後3か月
→ 重要な分岐点

術後6か月
→ 回復がplateauしてくる症例が増える

くらいで考えるとよさそうです。

「術後3か月」は結構重要かもしれない

2025年のindividual patient data meta-analysisでは、術後3か月までに筋力が1段階以上改善した患者は、その後も良好に回復する可能性が大きく上昇していました。

逆に考えると、

術後3か月経過してもMMT 0→0

という患者では、予後について少し慎重に考える必要があります。

ただし、

「3か月で戻らなければ一生戻らない」

というcut-offが確立されているわけではありません。

軸索再生や再支配には時間がかかるため、その後に改善する症例も存在します。

予後を決める重要なポイント

研究で比較的一貫しているのが、

① 術前の筋力

と

② 麻痺していた期間

です。

術前MMT 3程度残っている患者と、完全麻痺に近いMMT 0の患者では予後が違います。

同じように、

「昨日からdrop footになった」

患者と、

「半年間ずっとdrop footだった」

患者も同じではありません。

麻痺期間が長くなるほど、神経だけでなく筋肉側にも変化が生じるためです。

そのため、

術前筋力 × 麻痺期間 × 術後早期の回復

という3つを組み合わせて予後を見るのが重要です。

MMTだけでは分からないことがある

例えば、

「術後2か月。前脛骨筋MMT 0」

という患者がいたとします。

MMTだけ見ると、

「全然変わっていない」

ように見えます。

でも神経の中では、

軸索が伸びている
↓
神経筋接合部に到達する
↓
筋線維の再支配が始まる
↓
まだMMTでは検出できない
↓
やがて目に見える筋収縮が出てくる

という途中段階かもしれません。

そこで役立つのがneedle EMGです。

活動性脱神経が強ければ、

  • fibrillation potential
  • positive sharp wave

などがみられます。

一方、再支配が始まってくると、nascent motor unitなどが観察され、その後motor unit potentialにも再支配を反映した変化が現れます。

つまり、

「MMT 0=神経が全く回復していない」

とは限らないわけです。

TAだけ見ていていいのか?

もう一つ注意したいのが、

「本当にL5神経根障害なのか?」

という点です。

前脛骨筋が麻痺しているからといって、必ずL5神経根とは限りません。

総腓骨神経障害でも前脛骨筋は麻痺します。

例えば、

前脛骨筋 ↓
長母趾伸筋 ↓
長趾伸筋 ↓
腓骨筋 ↓

に加えて、

後脛骨筋まで弱い

のであればL5神経根障害を支持します。

逆に、後脛骨筋など腓骨神経以外のL5支配筋が保たれているなら、総腓骨神経障害も考える必要があります。

ここでもEMG/NCSが役立ちます。

まとめ

LCS術後に前脛骨筋が収縮しないからといって、

「除圧術が失敗した」

とは限りません。

手術で圧迫が取れていても、すでに軸索障害が起きていれば、そこから神経の再生・再支配を待つ必要があります。

そして回復する患者では、術後1〜3か月頃までに何らかの改善が現れることが多く、6か月程度までは回復が進む可能性があります。

特に、

術前筋力がどれくらい残っていたか
麻痺していた期間はどれくらいか
術後1〜3か月で変化が出ているか

は重要な情報になります。

では、ここでもう一つ疑問が出てきます。

「神経が戻ってくるまでの数か月間、前脛骨筋はどうなっているの?」

実は、筋肉はただ大人しく待っているわけではありません。

脱神経が続けば、筋線維では萎縮をはじめとするさまざまな変化が進みます。

となると、

「神経が戻ってくるまで電気刺激で筋肉を守れないの?」

という疑問が出てきます。

次回は、

「LCS術後、前脛骨筋MMT 0にNMESをする意味はあるのか?」

を考えてみます。

参考文献

  • 2025 individual patient data meta-analysis:腰椎変性疾患によるdrop footの術後予後因子(PMID: 39961861)
  • 2025 systematic review/meta-analysis:腰椎変性疾患によるdrop footの外科治療後転帰(PMID: 40648844)
  • Macki et al.:術後筋力改善までの期間と予後因子(PMID: 26810531)
  • Berger et al.:drop foot術後の早期筋力改善と長期転帰(PMID: 34624844)
  • Liu et al.:腰椎変性疾患によるdrop foot 135例の予後(PMID: 24224052)
  • Iizuka et al.:腰椎椎間板ヘルニアとLSSにおけるdrop foot術後成績(PMID: 19320587)

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